エンジンの重低音を響かせながら、僕は山道のワインディングロードを軽快に駆け抜けていた。
バイク便のライダーとして荷物を届ける目的地――その住所を目にした時、胸が大きく跳ねた。そこは大学時代、所属していたサークルで毎年夏に合宿を行っていた、思い出のロッジだったのだ。
当時の僕らは、最寄り駅から重いリュックを背負い、一時間もかけてこの山道を歩いた。汗をぬぐいながら仲間とバカ話をしたこと、木漏れ日が揺れる森の静寂、涼やかな風の匂い。かつて足を踏み締めながら進んだ道を、今はバイクのアクセルをひねり、わずか数分で走り抜けていく。ヘルメット越しに見える緑の景色が、まるで記憶のフィルムを巻き戻すように、次々と懐かしい場面を連れてきた。
坂を登り切ると、木々に囲まれたあのロッジが姿を現した。外観も、どこか温かみのある佇まいも、驚くほど当時のままだ。バイクを止め、荷物を抱えて受付へ向かうと、奥から初老の男性が出てきた。
「こんにちは、バイク便です」
声をかけて顔を見合わせると、思わず胸が熱くなった。当時のご主人だ。少し白髪が増えたものの、かくしゃくとしていて、元気そうな姿にホッと胸を撫で下ろす。
伝票にサインしてもらう際、我慢できずに伝えた。 「あの……僕、学生時代にここで毎年合宿をしていたサークルの者なんです」
ご主人は一瞬目を丸くし、それから破顔した。 「ああ! あの賑やかだった子たちかい! いやあ、覚えているよ。すっかり立派なライダーになって」
覚えていてくれたことが心から嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
手続きを終え、ご主人とお礼を交わしてロッジの外に出る。澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込みながら、敷地内から広がる山の景色を眺めた。
あの頃、ここで夜遅くまで語り明かした仲間たちの笑顔。そして、密かに想いを寄せていた二つ上の先輩の姿が浮かぶ。夕暮れ時、この場所で並んで景色を眺めたとき、横顔に見とれて言葉を詰まらせた甘酸っぱい記憶。結局、恋心は伝えられないまま卒業してしまったけれど、あの眩しい時間は今も僕の心の中で色あせずに残っている。
「さて、仕事に戻るか」
つぶやいてヘルメットをかぶり、エンジンをかける。懐かしい思い出を胸に抱き直し、僕は再び風を切って山道を走り出した。