街の無人化から感じた、バイク便の仕事の温かさ
ヘルメットを脱ぐと、内側にこもっていた熱気と、一日中都内を駆け回ったエンジンの振動が、どっと身体に押し寄せてきた。
21時。すっかり冷え切った夜風を切り裂き、最後の配送を終えたばかりだった。肩から背中にかけて、鉄板でも入っているかのように重い。 「腹、減ったな……」
疲れ果てて、誰かと口をきく気力すら残っていなかった。ただ、早く胃袋に何かを叩き込んで、泥のように眠りたかった。
そんな足で立ち寄ったのは、最近駅前にできた無人化された定食屋だった。 店内に入っても、「いらっしゃいませ」の活気ある声は響かない。出迎えてくれたのは、静まり返った空間と、淡々と光を放つ注文用のタブレット端末だけだった。
席に座り、液晶画面を数回タップする。お気に入りの生姜焼き定食を選び、そのまま電子決済の読み取り部にスマホをかざす。 数分後、調理場と客席を仕切るレーンが静かに作動し、料理が運ばれてきた。
「……早いな」
思わず独りごちた。 店員を呼ぶ手間も、注文の聞き間違いを気にする必要もない。セルフレジの手軽さは、今の僕のように「1秒でも早く、誰とも関わらずに用を済ませたい」人間にとっては、この上なく便利で、ありがたいシステムだった。
しかし、熱々の豚肉を口に運び、一息ついたとき、ふと妙な感覚が胸をよぎった。
便利だ。確かにものすごく便利だ。 なのに、なんだろう、この、喉の奥に引っかかるような砂を噛むような虚しさは。
僕の仕事はバイク便だ。 「物を運ぶ」のが仕事だが、その本質はいつも、人と人との境界線にある。 「いつも急な呼び出しに答えてくれてありがとうな、助かるよ」 「夜道、気をつけてね」
荷物を手渡すその一瞬、交わされる何気ない言葉。相手の引き締まった表情や、ほっと緩んだ笑顔。差し出された冷たい缶コーヒーの缶の、手のひらに伝わる確かな温もり。 デジタル化が進むこの時代に、わざわざバイク便を使って直接物を届ける意味は、きっとその「手渡し」の瞬間にあるのだと、僕は常々思っている。そこには、確かに人と人が繋がる温かさがあった。
それに比べて、この空間はどうだろう。 効率化の極致。無駄をすべて削ぎ落とした結果、ここには「食事という作業」を処理するシステムしか残っていない。
きれいに平らげた食器を返却口に戻し、店を出る。 「ありがとうございました」の音声ガイダンスが、機械的な電子音で背中に投げかけられた。
夜風がヘルメットの隙間を吹き抜ける。 便利すぎる街の冷たさに少しだけ身震いしながら、僕は相棒のバイクのセルを回した。明日もまた、誰かにあの「温もり」を届けるために。
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